「離婚?…離婚って誰が」

「もちろん俺達のだ」

視線を逸らすように話す和哉に対して、はっきりと顔を見ながら肇は言い放った。

この事はもちろん碧にとっても初耳で、これ程仲がいい二人にそんな過去があったのかと正直驚いた。

「その野曽原さんのお宅に行く途中、見つけたんだ…碧を」

「やっぱり熊野川じゃなくて十津川だったのね…」

「そうか碧はもう知っていたのか」

それには答えず碧は先を促すように小さく首をふった。

「国道から外れて川沿いの道…ガードレールの向こう側に数匹の野犬が集まっていた。最初何かの死骸だと思ってやり過ごそうとしたんだが、そばを通る時にふと目を凝らすと、それは赤い服を着た小さな少女だった」

「それが私ね」

「ああ…驚いてかけよって見ると赤い服だと思ったのは血でしかも未だ微かに息をしてる。もう野曽原さんどころじゃなくなってね。お母さんと二人で慌てて病院に運んだよ」

そこまで話した肇はぬるいビールをゆっくりと飲み干した。喉仏がまるで生きているかのように上下に動く。

「あいにく病院は休診日で院内には当番の看護婦しかいない。俺は夏美を助手に緊急のオペを開始した」

自分の呼称がお父さんから俺に代わったことに碧は父の思いが遠く遡っている事を感じ取った。

「その少女は顔に深い傷を負っていた。まるで何かに表皮を抉られたかのように…皮膚移植をする前に組織の消毒と検査をした俺は、そこに小さな鉄の粒を数個見つけた」

「鉄の粒?」

そんなこと思いもよらなかった碧は今更ながらに自分の頬を手でさすった。一見したところそんな大怪我をした痕跡は跡形もない。