「碧…」

「碧ったら何言い出すの?今日紺野さんと一緒に見に行ってきたんでしょ。お父さんがちゃんと地図まで書いてくれたじゃないの」

「もうやめよう夏美。碧には知る権利がある」

「…嫌よ」

夏美の瞳から涙が一滴流れ落ちた。

それを見た碧は胸が締め付けられるような疼痛を感じたがそれを言葉には出さず、ぎゅっと口を一文字に結んだままテーブルの下で手を震わせた。

「二人ともいったいどうしたんだよ、俺達家族だろ?何隠し事してるんだ」

(お兄ちゃんは何にも知らないのかしら)

和哉の様子から当時12歳だった兄が何も知らされていないのではと碧は思った。

「碧…いまさらこんな事言っても信じてもらえないかもしれないけど、本当の事言って、お父さん達も何もかも知っている訳じゃないんだ」

「うん…私みんなの事信じてるよ」

「今日碧が何処でどんな情報を聞いてきたのか知らないが…15年前の4月2日…和哉が春休みを利用して大阪のお婆ちゃんの家に言った日の事だ。俺と夏美は十津川村に住んでいる野曽原さんと言う人に会いに行った」

肇の口から十津川という地名が出てきて碧は体をこわばらせた。

「野曽原?…誰それ?」

和哉がいぶかしげに聞き返す。

「和哉が知らないのも無理ないだろう。野曽原さんはお父さんの大学病院時代の恩師でお母さんとの仲人をしてくれた人だ」

「ふうん。何かその人に用事だったの」

「ああ。手続きを済ます前に仲人をしてくれた野曽原さんに離婚の報告をしなければと思ったんだ」