家への道のりを無言で歩きながら和哉は、正直、自分がどうしていいか分からなかった。

その晩、沖田家の食卓にはピンと張り詰めたような何処かよそよそしい緊張感がみなぎっていた。

肇と夏美は碧が熊野川町に行く事を許した時からいずれ訪れるであろう日を意識して、何事も手につかない。

15年前のあの日、あの場所での出来事を昨日のように脳裏に描きながら肇は、黙ってビールを口に運んだ。

空気を変えようと和哉が殊更明るい声で冗談を言うが漂う愛想笑いに異変を感じ、黙り込む。

「碧・・・今日はどうだった?何か新しい発見でもあったか?」

緊張に耐えかねて肇が口を開いた。

その瞬間夏美がはっとしたように体を震わせる。肇の視線も宙に泳ぎながら何かを探そうとひっきりなしに動き回った。

「あなた・・・そんなに急がなくてもお食事中なんですから、ねえ碧、冷めないうちに食べなさい」

「お父さん・・・お母さん・・・」

「なんだか嫁に行くときのせりふみたいだなあ」

無理な作り笑いで取りつくろおうとするが不自然に唇がねじれただけでその端からビールが一筋流れ落ちた。

「私・・・本当のことが知りたいの。知ってどうする訳じゃないのよ、私のお父さんとお母さんはこの世に一人だけだし、私の家は此処だけ・・・でも知りたいの」

「知りたいのって言われても・・・なあ夏美」

夏美が肇の問いに慌てて相槌を打とうとした時、碧が再び口を開いた。

「私が倒れていた場所って本当は何処なの?」

汗ばむほどの気温のさなか全身に悪寒を感じたように背筋を震わせた肇は何か言い訳をしようと頭を働かせた後、一瞬後には諦めてがっくりと頭をたれた。