母親の夏美は肇より10才年下の50才だが、30代にも見える若々しさと、女優のような美貌で、その場に居合わせただけで雰囲気が華やぐ程、持って生まれた太陽のような求心力があった。

結婚してからは看護師をきっぱり辞め専業主婦に徹してきた夏美も肇同様、天使のように優しく、最近こそ少なくなったが碧が高校生の時には一緒に出歩いているとよく姉妹に間違われたものである。

そして先程、碧の裸身を偶然とはいえ見てしまった兄の和哉は、そのせいか碧とは目を合わせようとはせず不自然に視線を宙に泳がせながら未だに赤い顔をしていた。

『お兄ちゃん、おはよう』

『あっ?ああ…おはよう』

(フフフ、未だ照れてる)

此処まで言えばテレビに出てきそうな理想的な家族だが、碧は肇と夏美の本当の子供ではなかった。

今から15年前、当時小学生だった兄の和哉が修学旅行で東京に発った日、肇と夏美は二人で市街から車で30分程奥に入った熊野川町でハイキングをしていた。