総合病院かと思うほどの設備を整えた個人病院の沖田肇は明るく笑いながらすぐに記憶は戻るといったが、碧にはまるで自分が今ここで生まれたような感覚さえあった。

何日かが過ぎ初めて立ち上がる事を許された碧は鏡に映る自分の姿を見て小さな悲鳴をあげた。

それまでは自分がどんな顔をしているのか、自分は何歳なのかさえ解らず、外の世界といえば沖田肇に、毎日看病をしに来てくれる彼の妻で元看護婦の夏美、それに14インチのカード式テレビから流れる空想の世界だけ。

その限られた世界だけを知識として刷り込んでいくうちに碧は自分がもう大人になっているような気分でいた。

それだけにいざ鏡を見てその小学生の体格に戸惑い、それ以上に包帯でぐるぐるまきにされた顔は碧を落ち込ませた。

「大丈夫だよ、おじさん名医なんだ。少し顔を怪我してたけどちゃんと治しといたから。包帯がとれたらきっと美人でびっくりするよ」

その後何回か警察関係者がやってきてはいろいろと質問攻めにしたがその都度肇が碧を気遣いながら庇ってくれた。

碧の知らないところで紆余曲折はあったようだが福祉施設に入れられる寸前で肇と夏美が碧を養女として引き取ってくれる事が決定した。

沖田夫妻には一人息子の和哉がいてどんなときも碧を優しく守ってくれた。いつしか碧は血の繋がらない兄を誰よりも慕い、大きくなったら和哉のお嫁さんになろうと心に誓った。