数分後、１階にある小さな喫茶店に入った３人はコーヒーを注文してから向いあわせに座った。

「さっきは失礼しました。私，新宮警察の遠山と申します。今度の火災について不信なことが多いので調べています。ご協力願えませんか」

よくみると碧達とそう年齢が変らない風貌で和哉達とは違う意味で中々のいい男である。

「ねえ碧、結構格好いいんじゃない？」

同じ事を考えていた碧は逆に静香にそっと耳打ちされて赤面した

（そう言えば静香って彼氏いないんだよなあ・・・どしてだろ）

ほんの少しだが遠山と打ち解けた碧は１０数分彼の質問に答えた。

だが昨夜車に跳ねられそうになったことはふせておく。会社では不審火だという事は認めたくなく、ごみ置き場からの出火が倉庫の書類に燃え移ったという事にするらしかった。

それだと碧は可愛そうな被害者で済むが、その前の晩にひき逃げに遭った等という事が解れば何かしら碧に原因があると考えるのが道理である。

碧と同年代の遠山は碧が１５年前の記憶喪失の少女だとは気付いていない様子で、その手の話題には触れなかった。

しかし父の肇に聞いた話しでは当時はかなり話題になったそうだから、警察が本腰を入れて捜査すれば碧の素性が明るみに出るのも時間の問題である。

こうして巨大な運命の力によって結局は全てが真実の下に照らされる時がやってくる気配が碧にはひしひしと感じられた。

いくら今のままの曖昧な生活を望み、自分が誰かもわからず、また雅彦からの気持ちにも嫌われないように、深くもならないように続けていきたいと思っても動き出したベクトルは碧の運命を強引に軌道修正しようとしていた。