『碧、大丈夫?ケガ無い?』

『うん…足が痛い』

『バカ!それは昨日からでしょ…でも…でも良かった』

そう言って静香は大粒の涙をこぼした。

『だって窓から外見たら倉庫が燃えてるし、碧に知らせようと思ったら席に居ないんだもん…もしかしたらって…』

そう言ってまた涙をこぼす。
後ろでは古い木造の倉庫が音を立てて崩れ落ちようとしていた。

今頃になってようやく会社の人間も騒ぎだし怒声が飛び交う。

『静香ありがとね…本当に…』

煙を吸い込んだせいだろうか、それとも昨夜からの災難続きによる精神的疲労の為だろうか。
そこまで喋った碧はすうっと目の前が暗くなった。

驚いて何か呼びかける静香の顔がどんどん遠くなる。

(眠い…)

『碧?碧!どうしたの?しっかり…誰か!誰か救急車!』

煤で真っ黒になった顔で必死に叫ぶ静香に抱きかかえられたまま幕が降りるように碧の視界が閉ざされた。