そうしている間にも炎は勢力を強め室内にも真っ白い煙が充満してくる。

その迫り来る熱さに我に帰った碧は必死で奥へと逃げこんだ。

『どうしよう、どうしよう…出口はあそこしかないのに…』

足の痛みも忘れ立ち上がって辺りを見渡す。

しかし倉庫に出入口が二つもある筈がなく、目に入るのは書類の山ばかり。

10年以上も前から置いてあり、十二分に乾燥した書類の束は一度火がつくとあっという間に燃え上がる。

その炎はそれ自体がまるで生きているかのように舌なめずりをしながら床を這い回り、さながら獲物を追う大蛇のように碧に迫ってきた。

『碧!そこにいるの?』

もう駄目だと瞼を閉じ雅彦や和哉の顔が浮かんだ瞬間、その瞼をこじ開けるように静香の叫び声が倉庫内に響いた。

『し…静香!助けて!』

恐怖で涙ぐみながら持っていた書類を必死で炎に投げ付ける。

(あぁ…これって夢じゃないの?何時もの夢じゃないの?)

『動いちゃ駄目!今行くから!』