そんな物体を碧は勝手に鬼だと思い込んでいる訳で、きっと著名な精神科医だと、それが何を意味するのか判断出来るかもしれないと思っていた。

分厚いカーテンをしているので室内は薄暗いが時計を見ると既に朝の6時半になろうかという頃。

着替えを取ろうと壁面に収納してあるクローゼットに足を向けた碧は、そばに置いてある大型の鏡に自分の体を映してみた。

先週25才になったばかりの碧の体は細身ながら均整が取れていて、広い肩幅は水泳選手のそれを思い起こさせる。

寝不足のせいか少し疲れた様に見える表情も、かえってそれが元来の美しさを神秘的なまでに引き立たせ、額に掛かった乱れ髪から覗く濡れた様に輝く大きな黒い瞳は、碧の強い意思の力を表していた。

世間一般では25才がお肌の曲がり角らしいが、碧にとっては無関係らしく張り詰めた白い肌には一点の曇りもない。

『きっと本当のお母さんも肩幅広かったんだろうな』

誰に言うとでもなく呟いた碧はドアがノックされる音に慌てて持っていたTシャツで胸の辺りを押さえた。