健康な時は気付かぬものだが、こうして体の自由がきかなくなると椅子に座る事すら一苦労である。

給湯室に行く前に作成してあった地元団体への協賛金の稟議書をプリントアウトしようとした碧はプリンターのインクカートリッジが空になっている事に気付いた。

一瞬誰かに取ってきてもらおうと周りを見渡すが、今朝から皆に世話になりっぱなしだった事を思い出し言葉を飲み込む。

若い男子社員は全員営業に駆り出されていて碧と静香の勤める総務部は皆、碧の父、沖田肇と同年輩である。

そのせいか自分の半分の年齢にも満たない碧達を皆、娘のように可愛がってくれていた。

今朝も緩慢な動きしか出来ない碧の為に書類を取ってきてくれたりジュースを買ってきてくれたりと申し訳なくて仕方がない。

こっそりと立ち上がった碧はエレベーターで一階に降り、ビルの裏にある在庫品倉庫へ向かった。

腕の方はたいした事ないが右膝がかなり痛む。

歩けるのだから骨折はしていないだろうが真っ黒に内出血した膝は僅かにしか曲げる事が出来ない。

足をかばうように、そろそろと歩いて裏に出た碧はポケットから鍵を出して倉庫の扉を開けた。

10畳ほどのスペースに事務用品から過去の書類が山と積まれている。