照れ屋の和哉が化粧品店で店員の好奇の眼差しを受けながら自分の為に選んでくれた日の事を思い出し碧は哀しくなった。

大学の頃からあまりメイクをしなかった碧だが、このコンパクトだけは5年間大切に使ってきたのだ。

『ひっつかないかなぁ…』

割れた部分を重ね合わせている内に何故だか涙が出てきた碧は地面に座り込み激しく泣き出してしまった。

コンパクトが割れて哀しいのか、膝が痛くて辛いのか訳が分からないが鳴咽が止まらない。

驚いたのは和哉の方で慌てながら碧の肩を揺すった。

『ど、どうしたんだよ碧?泣くなよ…なあ、もっと良いもの買ってやるからさぁ、だから泣くなよ』

やがて肩に置かれた和哉の手が碧の体を自分の方に引き寄せた。
碧も自然と身を任せる。

碧を抱きしめながら優しく頭を撫でる和哉の手が碧の心からどんどんと恐怖を拭い去っていく。

自らも和哉の背中に腕を回した碧は顔を押し付けながら目を閉じた。

(お兄ちゃんお風呂入ったんだ…石鹸のいい匂い…)

和哉に抱かれていると眠くなってくる。