必然的に道路の端に身を寄せ、やり過ごそうとした碧の耳に更にアクセルを踏み込んだような唸り声が入った。

反射的に振り返った碧の視界を猛烈な勢いで突っ込んでくるハイビームが遮る。

『えっ？…！』

眩しさのあまりバッグを持った手を目にかざそうとした瞬間、足元のくぼみにつまづいた碧はバランスを崩して思い切り後ろに転倒した。

その直後に疾走する物体が脇を擦り抜ける。
僅かに接触したハンドバッグが音を立てて宙に舞い上がり、中の化粧道具や携帯電話が路上に散乱した。

あまりの事に呆然とした碧が慌てて顔を向けると、真っ赤なテールランプが角を曲がる寸前で、一瞬の間をおいて視界には元の暗闇が広がった。

『な、なに…何なの…？』

ショックで何度も呟きながら立とうとするが腰がぬけて立ち上がれない。

今更ながら恐怖が込み上げてきた碧の肩が小刻みに震え出した。