『ごめんなさい。でももう少ししたら何だか思い出しそうなんです。何故か分からないけど…でも何かが頭の中で弾けそうな…』

『そう…じゃあ全てを思い出したら考えてくれるかな? もうこれ以上沖田にも俺の気持ちを隠す事なんて出来ない。あいつ酒を飲んだら何時も碧ちゃんの話するんだ…兄という立場を越えて沖田に妬いちゃうよ』

ため息混じりに苦笑いを浮かべてワインを流し込む。
血の繋がりが無いという事実がそう思い起こさせるのか、雅彦から見て和哉の碧への接し方は何かしら男女のそれを思わせるに十分な物であった。

若干気まずくなった空気を払うように雅彦が話題を変え、食事が済んだのは8時半を少し回った所。
少々アルコールが回った二人がエレベーターに乗り込んだ時、中には二人以外誰も居なかった。

碧も何故か黙り込んでしまい、申し合わせたように階を表示するデジタルを二人でじっと見る。

横目に映る雅彦が一瞬揺らめいたように見え、倒れるのでは…と思った瞬間、碧の体は頑丈な雅彦の胸に抱かれていた。