『…沖田は俺達の事知ってるの?』

ワイングラスに視線を置きながら遠慮がちに聞く雅彦に碧は困惑した。

『俺達の事って言われても…』

『前にも言ったけど俺、碧ちゃんの事好きだよ。結婚したいと思ってる。真剣に考えて欲しいな』

『はぁ…』

ずっとこのような淡い関係が続けばいいなと漠然と思っていた碧だが現実はやはり、そうは行かないようだ。

『雅彦さんの事は好きですし、私には勿体ないぐらいの人だと思います。でも…』

『でも?』

『私まだ結婚なんて…仕事も面白いし、まだやりたい事とかも…それに…』

『記憶が戻らない事気にしてるんだ…俺はそんな事ちっとも関係ないよ』

テーブルの料理が冷めるのも構わず雅彦は真っ直ぐに碧を見つめた。

関係ないと言われても実際、碧の心には常に大きな黒い塊があり、心の底から気が晴れた事は一度もなかった。

これだけ手掛かりが無い所を見ると、実の両親は既にこの世に存在しない可能性が高い。

それでも、この肉体を生み出してくれた存在に一目逢いたいという本能は押さえきれる物でもない。