そして何時もの様に穴を覗き込んだ碧は、そこに恐ろしい形相の鬼の姿を発見した。

逆光の中、姿や輪郭がはっきりしている訳ではない。

ただ抽象的に体の部位が圧倒的な存在感を示し碧を凌駕した。

その大きく見開かれた瞳は血走り、逆立った髪からは誰かの返り血だろうか生暖かい鮮血がほとばしっている。

恐怖に耐え兼ねた碧が何か言葉を発しようとした瞬間、鬼は地の底まで響き渡るような叫びを上げ、その血に濡れた両手を碧の首にかけた。

(大丈夫…何時もの夢だから…)

全身の毛穴が総毛立つような、おぞましさに耐えながら静かに瞳を閉じた碧はゆっくりと数をかぞえ四肢の緊張を緩めた。

そうしている内に首に掛けられた力は段々と弱くなり、全てが闇に溶けたような静寂が辺りを包む。

そうしてから碧はゆっくりと閉じていた瞳を開ける。

そこには何時もの見慣れた風景が広がっていた。