修学旅行から帰って来た和哉は、さすがに事実を受け入れにくそうだったが、1ヶ月経ち碧が退院してくる頃には諦めたのか空き部屋を碧の為にせっせと片付け始めた。

そうして沖田家の一員になった碧は高校を出た後、地元の蓬莱学園大学を出て駅前の証券会社に勤務するようになった。

それも今年でまる3年が経つ。

近所でも評判の美しい女性に成長した碧だったが、未だに何も思い出せず、最近妙な夢にうなされる事が多くなっていた。

(もしかして何か思い出せるのかな…)

しかし今となっては現実を思い出し、全てが明らかになる方が碧には怖い。

自分が何故あそこに倒れていたのか、自分の親族はどうなったのか…それがはっきりすれば多分碧は此処を出て行く事になるだろう。

もちろん皆止めるだろうが、事実がはっきりしてからも沖田家に居続ける事が自分に出来るのか碧には分からなかった。

(思い出さない方がいい事だってあるわ)

自分に言い聞かせるように呟くが、悪夢と共に押し寄せる毎朝の頭痛が、その日が確実に近付いて来る事を暗示しているような気がする。