外国から電話がかかってきたときの静香のよどみない英語力を思い出しながら碧は彼女の心境に胸が痛くなった。

自分は特に希望も無いまま肇のすすめもあって地元の大学に4年間通ったのだ。

在学期間中はあまり勉強もせずサークル活動や友人達との旅行に時間を費やした。自分がそうしている間も静香は夢を押し殺しながら社会に出ていたのである。

「それでさ…やっぱり南紀が恋しかったのかしらね。その後帰ってきて、あの会社に就職したのよ。人生をやり直そうとおもったわ。私の人生はこれからだって思った。沢山お金かせいでうんと贅沢しようと思った。お金がたまったらいつかはアメリカにいって大学に行きたいなって思った。なのに…なのに4年たって大卒の新入社員で碧を見て息が止まりそうだった。整形手術で顔は変っていても私にはわかった。碧が沙耶だって事…もし碧が沙耶に戻れば私はまた此処を追われるって思ったわ。もう逃げる人生は沢山よ!…あなたがいい気になって大学で遊んでいる間も私は生きるために働いていたのよ、碧なんかに私の気持ちがわかるもんですか」

碧は哀しかった。静香の気持ちよりも、自分が静香を追いやってしまった事が、そして傷つけてしまった事が。

「いつだったか妹が…碧が車に跳ねられそうになったり、この前の火事…」

「全部私よ。ふふふ、驚いた?だって碧がもうすぐ思い出しそうなんて言うんだもん」

拳銃を碧に向けたまま静香は器用にタバコに火をつけた。目を細めてうまそうに紫煙を吐き出す。

「私に死んでほしかった?…そんなに憎かった?」

視線を地面におとしたまま碧は聞いた。

「ええ憎いわ。あんたが私を滅茶苦茶にしたのよ。死んで当然よ。碧なんか生まれてこなければよかったのよ!」

「じゃあどうして、私を炎の中から助けてくれたの?どうして出生のルーツを探る時に運転手してくれたり…どうしてあんなに優しくしてくれたの…」