部屋から出たとたん、雫の口が動いた。


「おまえ、一般人かよ。

否、それ以下か。貧乏人だ。

どうせ理事長に取り入って裏口でもさせてもらったんだろう。


俺は貧乏人が大嫌いなんだ。」



彼の言葉に、昔の彼の言葉を思い出す。







    いっぱんじんとか、おかねもちとか関係ないの。

みんな、いいひとだよ。


ぼく、このまえいっしょにあそんだもの。




やさしかったもの。


             』





『一般人なんて、嫌いだわ。

   とっても野蛮なんだもの。』



昔、そう零した桜花を雫はいつもしたったらずな言葉で諭した。




頭がよく、何でもできた桜花が唯一雫に習っていたこと。




ヤ サ シ サ 。




そんなものは、もう、今の雫には無かった。



桜花が変わったように、雫もまた、この長い年月の中で変わってしまっていた。



桜花のさくらとしての記憶の中で大切だった幼馴染。


紅茶を入れてとねだられ、いつでも紅茶を入れると約束した。




桜花となったさくらの唯一の支え。




あの頃の彼はもう、ここに居ないと、自覚させられた。




無性に、哀しかった。



桜花では無い、さくらである部分が、哀しかった。





「_____。





   すみません。でも、家柄だけが、全てだとは思えませんから。」






雫の目が驚きに染まった。