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ベッド脇のサイドテーブルに置いてあったスマホが、軽快な音楽を奏でながらガタガタと震えて目が覚めた。布団のぬくもりを逃がさないように手だけを出して掴みとる。
画面には、『紗耶香(さやか)』の名前。時間は十一時過ぎ。
「はーい」
『あ、ちな? 起こした? ごめんー、今大丈夫?」
明るい声が耳元から聞こえてくる。最後に会ってから一年以上経っているのに、こうして話をすると昨日も一緒に遊んだような気持ちになる。目を瞑ると、さらさらのストレートヘアを揺らしながら、八重歯を見せるように大きく口を開けて笑う彼女が浮かんだ。
「大丈夫だよ、どうしたの?」
『中学の同窓会の連絡来たんだけど、ちな、参加する?』
「……なに、それ」
重たかった瞼がぴくり、と反応して固まる。ゆっくりと体を持ち上げてベッドの上で体育座りになった。ふと隣を見ると、いつのまにベッドに入ってきたのか、幸登が顔をしかめてもぞもぞと動いていた。
「ごめん」と電話の向こう側に聞こえない程度の声をかける。布団を幸登に掛けてリビングに移動する。空気もソファも冷え込んでいて、寒さに体を縮こませた。
『あーちなFacebookもTwitterもやってないんだっけ?』
「やってないよ。SNSはLINEだけー」
『やりなよ、便利だよ! 結構みんなとつながれるし』
んー、と曖昧な返事をして、その同窓会の詳細を聞いた。
SNSにはあまり興味が持てなくて手を出していない。始めたところで友だちのようにこまめにチェックすることもないだろうと思っている。あまり親しくない地元の友だちとつながる、というのも少し抵抗がある。
なんて。そんなのはただの言い訳だ。
わたしはただ、避けて、逃げているだけ。
思い出さないように、振り返らないように、過去の扉に鍵をかけて必死に閉じ込めているだけだ。紗耶香や大学の友だちからの話を聞いていると、少しやってみようかな、と思ったことは何度もある。でも、できなかった。