「佐々木さん、佐々木さん!!」



ナースステーションに戻ると鈴木さんが手をバタバタさせながら私に近づいてきた。

明らかに挙動不審で足や手がガクガクと震えている。

普段は普通である鈴木さんとは、結構仲がいい。


「ど、どうしたの」


「どうしよう!!まさか患者さんが『SHANGRI-LA』だなんて思わなかった!!ホントに大事に至らなくてよかったよ!!佐々木さんメンバーと喋ってたよね!?どうだった!?」


「へ?や、別に・・・礼儀正しい人たちだったけど・・・鈴木さん、あの人たちを知っているの?」


私がそう尋ねると鈴木さんは目と口をめいっぱい開けた変な顔をして後ずさった。

何、そのリアクション・・・。



「え?冗談でしょ・・・?」

「何が?」


私が聞き返すと鈴木さんは更に間抜け顔をした。


「佐々木さん、『SHANGRI-LA』知らないの・・・?」

「うーん、さっきスタッフさんのTシャツに『SHANGRI-LA』って書いてあったから、知った。でも基本的に何も知らない」


鈴木さんは余程ビックリしたのかタオルで顔の汗を拭おうとした瞬間にテーブルの上のカルテに思いっきり肘が当たり、派手に床へぶちまけた。


「あーぁ、もう何やってんの」


慌ててカルテを拾い上げる鈴木さんを手伝っていると、鈴木さんは拾い上げたカルテを勢いよくテーブルに叩きつけた。

丁度立ち上がる瞬間にそれをやられたので思いっきりビクッとしながら飛び上がるような形になってしまった。


「信じられない・・・佐々木さん、音楽聴かないの?ていうかそれ以前に、テレビ見ないの?」

「音楽は洋楽かクラッシックしか聴かないから・・・テレビはNHKぐらいかな」

「えぇー!?何、それ!ありえないよ!!そんなの26歳失格だよ!?NHKだけって・・・!」

「だって、CMあるとイライラするでしょ・・・でさ、何なの?『SHANGRI-LA』って、そんなに有名なの?」