「勝手に言っちゃっていいものかどうかは、わからないんですけど、雪村さんは『今』の雪村さんを見てもらいたいんじゃないんでしょうか」


佐上さんはタオルで目を押さえて黙っている。


「雪村さん、嬉しかったって言ってたんです。だって佐上さんが『今』の雪村さんをちゃんと見ていたから。知らない自分じゃなくて『今』を見ていてくれたから。雪村さんは今、だれも知り合いがいなくて、どうしようもなく孤独だったんだと思います。寂しかったんだと思います。だから、佐上さんは雪村さんの心の救いになったんだと思いますよ」


佐上さんはタオルから頭を上げた。

目は赤く充血していたが、もう涙は出ていなかった。




「ホントに・・・そうだといいな」



そして笑った。

少しだけ恥ずかしそうに、嬉しそうに。


やはりその笑顔は偽りのない本物の笑顔に見えた。





「俺、今の樹のこと・・・怖かったけど、今の樹は最初に出会ったころのちょっと前の樹なわけだから、結局は樹なんですよね。だから俺『今』の樹とも上手くやっていける気がするんです。それで、もっともっと色んな話して、もう一度ギター弾いてもらったりして・・・そうしたらきっと何か、少しだけでも思い出してくれると思うんです。だから・・・これからもお願いします」



佐上さんはガタリとパイプイスから立ち上がって勢いよく頭を下げた。

私は慌ててそれを制止する。






「それはこちらのセリフですよ。全てを思い出す日まで見守らせて下さい」






佐上さんはお茶をぐいっと飲み干して太陽のような笑顔で帰っていった。

雪村さんはたまに向日葵みたいな笑顔で笑ってたんだって、志田さんが言ってたっけ。






雪村さんが向日葵なんだったら、きっと佐上さんは全てを照らす太陽に違いない。






向日葵は太陽の方を向き続けるらしい。


そうしていたら、きっと、雪村さんも・・・・・・。