一瞬、時が止まったような感じがした。




それは本当に一瞬のことで、すぐに時は今までと同じペースで流れ始めたのだけれど。


それでも雪村さんはまるで時間が止まったかのように固まっていた。



切れ長の目を大きく見開いて、佐上さんを見上げていた。




「だって、今からでも遅くないでしょ?俺、樹が好きだよ。記憶が亡くなってたって樹は樹じゃんか。また樹とステージに立ちたいよ、色んなことだって話したいし、もっと色んな場所に行きたい。もっともっと樹と笑いあいたい。最初は今まで通りってわけにはいかないと思う。でも俺は樹と友達になりたい」


「・・・・」


「俺と友達になってよ」



佐上さんの声がぽつりと部屋の中に消えた。




随分時間が経った気がした。もう何も会話が生まれないのかと思ってしまうほどだったように感じた。しかしそれは私がそう感じただけかもしれなかった。




雪村さんは聞こえるか聞こえないかぐらいの声で言った。








「・・・テレビカード買って来い」



「え?」


突然のことに、佐上さんは首をかしげた。




「暇すぎて死にそうなんだ。・・・ダチだと思ってんなら奢るぐらいしろよ」




雪村さんは決して目を合わせようとはせずに、ずっと顔を逸らしながら言った。

それでも私からも佐上さんからも確認できたのは、いつもとは違う雪村さんの赤くなった耳だった。







「・・・うん!」



佐上さんはニッコリと笑って、私に一礼してから部屋を出て行った。