「雪村さん、入りますよ」



コンコン、と雪村さんの部屋の扉をノックする。

扉ごしには、ん、とだけ返ってきた。

扉を開けるとベッドの上で体を起こした雪村さんが目に入る。


雪村さんは私後ろにいた佐上さんを見た途端にキッと顔色を変えた。

空気がぴりっとしたような感じがした。



「…何しに来たんだよ」



視線も合わさずに、雪村さんはそうやって言い捨てた。


「樹、この間は悪かったよ。俺も恭平も信二も、そう思ってる。本当にごめん」


佐上さんは深く頭を下げて言った。

雪村さんは眉間に皺をよせて首を振った。


「やめろ、そんな話しすんな……用が済んだら帰ってくれ」


私はまた佐上さんが泣き出してしまうのではないかと焦った。




しかし、佐上さんは泣かなかった。
いや、それどころか、ニコリと微笑みを浮かべていた。



「樹、これ、実家に植えていたのを採ってきたんだ。樹が元気になるように」



佐上さんは持っていた紙袋から花束を取り出して雪村さんに見せた。

その花束は小さめの向日葵を4本ほど合わせたものだった。


「いらねぇよ、そんなもん」


即答だった。


「まぁまぁ、そんなこと言わずにさ。佐々木さん、花瓶あります?」

「ありますよ、持ってきますね」