昼食を食べ終わって、私は自分の部屋に戻った。


机に向かって、一冊のノートを取り出す。



ノートの表紙には『入院生活 雪村樹』。




病院側でつけなければならないものとは別に、これは私が勝手に作って、勝手に毎日つけているものだ。

簡単に言えば雪村さんの入院生活で起こったこと、私がしたこと、雪村さんの言動などを書き留めている。いわば入院日記みたいなものだ。


記憶を取り出すまでのことを書き留めることで、今後記憶を喪失してしまった人の助けになるかもしれない。


それより何より、これはあの3人に見てほしかった。

あの3人は忙しい身であるので毎日来ることはできない、だからせめて文章だけででも、雪村さんの状態を知ってほしい。



私はボールペンを手に取り、新しいページに今会ったことを書きとめた。




この5日間で知った雪村さんは、


無愛想で笑わなくてひねくれてて・・・そしてあんまり喋る人じゃなくて、それでもって口を開けば嫌味ばっかりで・・・本当に以前志田さんが語ってくださった初めて会ったときの雪村さんそのものだと思った。



それでも今日はまだ進展があった方だと思う。

こんなに雪村さんと会話をしたことなんてなかった。

もしかしたらこれからも、一緒にご飯を食べたりすることで、何かが変わっていくのかもしれない。



私がノートを閉じて間もなく、コンコン、と控えめなノック音が聞こえた。