「…なあ」

「はい?」

「例えば俺が利き腕を骨折したとするじゃねぇか」

「はぁ・・・」

「したらさ、コレ、どーやって食べろっつーんだよ?」


雪村さんは指で魚の干物を指差した。


確かに、他の食事は何とかして食べれるにしろ、これに関してはどうしようもない。

食事はアレルギーなどの問題を除いては患者さんに関係なく同じものを提供するので、腕を骨折した患者さんはほとんど食べることができないということになる。


「・・・あ、でも、そういうときは私たちを呼んでくだされば骨をとりますし・・・」

「実際言える奴なんてそうそういねぇだろ」


確かに言われたことがない・・・。


「何だかんだでやっぱり不便だよな、病院ってさ。テレビも有料だし、暇でしょうがねぇっつーの」

「え?あ、言ってくださればカード買ってきますよ?」


私の病院のテレビは有料のテレビカードというものを差し込んで視聴するタイプのものだ。

1枚1000円で20時間見ることができる。


「は?そんなもったいねぇことできるかよ、入院代だけでも馬鹿高ぇっつーのに」


雪村さんはお金にシビアな人だった。

記憶を失っていない雪村さんはどうなのかは知らないが、今の雪村さんは高校生までの記憶感覚しかないわけで、テレビを20時間見るのに1000円を出すのには抵抗があるのだろう。


「そうですか・・・でも、退屈・・・ですよね」

「そうやって言っただろうが・・・何かないのかよ?」


私はお味噌汁をすすりながら頭を捻って考えてみた。

・・・何も思い浮かばない。


「・・・考えておきます」

「明日中にな」


雪村さんは綺麗な手で魚の骨を丁寧に取りながら言った。