私は自分の部屋に荷物を置いて物の整理を始めた。



しかし、間もなく私の部屋の電話が鳴った。

私の部屋の電話が鳴るのは婦長室からか雪村さんの部屋からか、だ。


私は電話を取った。




「はい、もしもし」


『・・・・俺』



声の主は雪村さんだった。



「どうかなさいました?」



私はそう尋ねたが、返事は無かった。

私は疑問に思って、今から伺います、と言って電話を切った。



慌てて部屋から飛び出し、雪村さんの部屋の扉を開ける。



「雪村さん?どうかしましたか・・・?」



雪村さんはベッドの上で体を起こして呆然としていた。

そして私を見ると、小さな声で何かを呟いた。


「雪村さん・・・?」

「・・・やっぱり・・・」


「え?」





「思い出した・・・名前だけだけど・・・俺は・・・雪村樹・・・・雪村って、俺のことだ・・・・」




雪村さんはうわ言のようにそう言ったのだった。






それはこの入院生活の中での、雪村さんにもたらされた最初の希望だった。