「あのっ・・・」




鞄を担いで雪村さんの部屋がある廊下を歩いていたところ後ろから呼び止められた。

ひやっとして振り返ったところ、そこにいたのは志田さんだった。

酷く疲れた顔をしていた。


「あの・・・本当にご迷惑ばかりかけてしまって、すみませんでした。一般の患者さんにまで、こんなに迷惑をかけてしまうなんて・・・」


志田さんはチラリと入口のある方に目をやって言った。確かにあの荒れようは凄まじかった。

それでも私が戻ってきた時にはそれなりに落ち着きを取り戻していたと思う。


「心配しないで下さい」


私は微笑んでそういうことしかできなかった。


「あの・・・さっき俺、どうしても抑えきれなくって・・・樹に全部話しちゃったんですけど・・・やっぱり、言わない方が・・・よかったです、よね」


志田さんは自分が雪村さんに過去のことを言ってしまったのを深く責めていた。

確かにそれのせいで雪村さんはヒステリーを起こしてしまった。


「いずれは言わなければいけないことでしたけど、一気に全部言ってしまったのは良いことではないですね。雪村さん、今大分混乱しちゃってますから・・・」

「そうですよね・・・本当に・・・ごめんなさい」


志田さんが土下座しそうな勢いで頭を下げてきたので私は怯む。