私がそう言うと、雪村さんは頭を押さえた。

時々苦しそうに、うめき声を上げた。




「・・・・っ、わからないんだ・・・」


「雪村さん・・・」


「さっき・・・あの3人にも言われた。でも俺にはそんな記憶なんてないし、雪村樹っていう名前にも、聞き覚えが無いんだ。自分が記憶喪失だってことは、理解できたんだ。でも本当は、以前から自分には名前が無いんじゃないかっていう気になる。俺の過去を知っている奴に話しを聞けば思い出すかと思ったけど、駄目だったんだ。全然思い出せなかった・・・」


「雪村さん、無理に思い出そうとしなくてもいいんですよ。色々考えて疲れたでしょう。お休みになりますか?」



「・・・あぁ、そうだな・・・一人にしてくれ」

「わかりました」




思えばそれが、雪村さんが意識を取り戻してから最初に自分の内側を語った瞬間だったのかもしれない。




私は雪村さんの個室をでた。しばらく彼は眠るだろう。

その間に私はしなくてはならないことがあった。