「本当の雪村さん・・・といいいますと?」


「よく喋るし、よく笑う奴ですよ。出会った頃では考えられないぐらいお喋りで・・・まぁ笑い方もクールだったりニヒルだったりするんですけど、たまに向日葵みたいに笑う時があったんです。それ見たときは、本当にビックリしました」


「向日葵・・・」

鈴木さんがぽつんと呟いた。



「私・・・ITSUKIさんがすっごい笑顔になるの、大好きだった・・・」

「ちょっと、鈴木さん」


ほとんど無意識に呟いている鈴木さんを慌てて制止する。

志田さんは軟らかく微笑んで、俺たちのこと知ってくれてるんですね、ありがとうございます、と言った。



「あの・・・雪村さんは以前、健忘症になられたことはございませんでしたか?」


「そういえば・・・デビュー前のことなんですけど、俺たち仕事しながらバンド活動をしていたので、相当ストレスが溜まっていたときがあったんです。その時に、一過性全健忘症っていうのに、一回だけなってました。次の日には治ってたんですけど・・・」


一過性全健忘、というのは、一時的に記憶が無くなる病気だ。通常24時間以内に治るし、再発する確率は少ない。


「その時は、前日の記憶が無くなってました。それと、同じ質問を何回も繰り返してたから、本当に怖かったんです。樹が壊れた!って皆大騒ぎですよ。でも病院にいって一日休ませたら、すぐに治ったんです・・・」


「先ほど先生がおっしゃられた通り、以前健忘症になった方はストレスやショックによって解離性健忘症になりやすいんです。おそらくその一過性全健忘症と事故のショックで雪村さんは解離性健忘症になってしまったのでしょう」


「あの・・・その、解離性健忘症っていうのは、一過性全健忘症みたいに、すぐに治るんですか?」

佐上さんが聞いた。

もう涙は止まっていたが、やはり声が震えていた。



「解離性健忘症は、いつ治るか分かりません。・・・明日治るかもしれないし・・・一生、治らないかもしれません」