「それでようやく、僕たちは樹の様子がおかしいって気づいたんです。それでも、ちょっとでも可能性を信じて、色々聞いたんです。でも樹は僕たちの名前は勿論、自分の名前すら覚えていませんでした」


「・・・もう一度、検査しましょう。その検査で、雪村さんが今どういう状況であるか、明らかになると思います」



いたたまれなくなって、私は男性の言葉を遮って言った。男性は深く頷いて絞り出すように、お願いします、と言った。

その声は震えていて、目には涙が溜まっていた。


「すぐに医師を呼んで再検査をします。・・・・えっと・・・?」

私が言葉を詰まらせると、男性は最初首を傾げたが、すぐに私の言いたかったことを理解したらしかった。

「僕は萩野という者です。萩野信二と申します」

「そうですか。萩野さんはここでお待ち下さい。お連れ様が来られましたら、お伝えくださいね」


私はそれだけ言って、すぐに医師を呼びに行った。