「樹の目が覚めた時、僕たちは本当に喜んだんです。でも、樹は無表情だった。あんなことがあった後だからって、僕たちは最初そう思ったんです」



待合室の長椅子に座って金髪の男性は話しはじめた。

こんな時間なので待合室には、私たち二人しかいなかった。


「異変に気づいたのは間もなくでした。晴が・・・あの、さっき走ってったちっちゃい奴のことなんですけど、晴が本当に良かったって、樹に抱きついたとき、樹は晴を突き飛ばしたんです」


私はただ黙って聞いていた。

言葉が出なかった。だって、私、こんなの初めてで、どうしたらいいかわからない。


「そして樹の口から出てきたのは、信じられない言葉でした」



雪村さんは3人に向かって、お前ら誰だよ、と言ったらしい。




「そうやって言われただけなら、冗談かもって思えたかもしれないけど、晴を突き飛ばすなんて・・・。僕たちよくライブをしていて、ハグだとかって男の友情みたいなかんじだから、珍しいことじゃなかったんですよ。ましてや晴は一晩中ずっと樹を心配して泣いてて、だから目が覚めた時に抱きついたのは自然なことだったんです、なのに・・・」


男性は膝に肘をつき頭を抱えた。

綺麗な顔は苦悩で皺がたたまれ歪んでしまっていた。


「僕たちビックリしちゃって、信じられなくって・・・だから樹に冗談は止めろって、言ったんです。そしたら樹に・・・お前らこそ何なんだよ、人からかうのもいい加減にしろ、見ず知らずの奴にそんなこと言われる筋合いなんかねぇよ・・・って言われちゃいました」


そのときの樹、見たことないぐらい怖い顔してたんですよ、と男性は苦い顔をして言った。