《ねぇ、木田先生。何も宮沢さんを悲しませようって言ってるんじゃないんですよ。むしろ喜ばせようとね》

…口が達者だ。こんな嘘を誰が信じるか。

「宮沢はあなたから喜ぶことをされても嬉しいなんて感じないでしょうね」

空を見上げて言った。宮沢ならそうだ。あんたなんかの為に嬉しい感情を素直に出すはずがない。

むしろ憎しみだけだ。

《じゃ、彼女は泣いたままか》

「は?」

《旦那に浮気されて誰にも助けを求めなくて…》

どういうことだ?
浮気って…吉田先生が?

ありえない。あんなイイ男が浮気なんて…

俺は近くにあった雑誌を見つめた。

雑誌には宮沢を取材した記事があった。
ちょっとだけ悲しそうな顔をしながら取材に応じていた。