名無しさんの声が、頭の中で響く。
《…今から記憶をもらう。俺が3つ数えるまで、絶対に目を開けるなよ。いいな? …1、2、3───…》
突然、がやがやとざわめき声が耳に入ってきた。
私はゆっくりと目を開けると、いつの間にか横断歩道の手前にいた。
どうやって記憶を抜かれたのか、どの記憶を抜かれたのかなんて、覚えていない。
ただ“目を閉じろ”、そう言われただけだった。
隣には、私の手をぎゅっと握っててくれる、カイがいた。
「どこだ、ここ?」
と、カイはきょろきょろと見回す。
空はすっかり暗くなっているにもかかわらず、私たちの目の前をたくさんの人が通り過ぎていく。
私はクスッと笑うと言った。
「ここは、私とカイが会ったところ」