「初樹」
と、カイがささやくかのように、私を呼んだ。
その声は、柔らかかった。
私はゴクンッと息をのむと、覚悟を決めてカイの目をじっと見つめた。
カイは、穏やかな口調で話し出した。
「俺さ、きのう、おまえと別れた後、気になって家に引き返したんだ。おまえの様子がさ、なんだかおかしかったから。どこに電話をかけていたのか、気になってリダイヤルボタンを押してみたんだ。《美濃》という人が出ただけで、俺にはさっぱりわからなかった。…あのコの名前を聞くまでは」
私は食い入るように、カイの話に耳を傾けた。
カイはやっぱり、あのとき気づいていたんだ。
あのコが、私であるということに。