なぜ、私は《バイクのお兄ちゃん》の存在を忘れていたんだろう。



 記憶の欠片(かけら)すらなかった。







 カイの腕の中で、大人しくしている、チョコ。




 それを見て、11歳の私が言う。

 「やっぱり、チョコは、お兄ちゃんが好きなんだね」






 ぼう然と立ち尽くす私に、パパが横でこう言った。

 「チョコも初樹も、彼のことが好きみたいだね」




 えっ?




 私は目を丸くして、パパを見た。




 パパは続けて言った。

 「彼とはここで、たまに会うんだ。バイクの音がすると、初樹はいつもうれしそうにしててね」





 私は、さっき、うれしそうに手を振っていた、11歳の自分を思い出した。




 あんなにうれしそうな顔をしていたのに、なんで忘れちゃっていたんだろう…