その人は、ゆっくりと土手を降りてくる。
見覚えのある、その人の顔を見て私は、自分の目を疑った。
「…カイ」
と、私は思わず口にした。
ぽつりとつぶやくように言ったのに、カイがゆっくりと私に視線を向けた。
「初樹、なんで?」
カイの問いに答える前に、チョコがちょこちょことカイのもとへ駆けてきた。
カイはしゃがむと、
「チョコ!」
と言うと、チョコは元気よく、カイに飛びついた。
まるで、今朝の夢を見ているようだった。
私はあの夢が、自分の失った記憶の一部分なんだと、改めて思った。
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