そして、場面は飛ぶ。





 それは、夕暮れ時、あかね色に染まる空の下で、気持ち良さそうに眠る、その男の人。




 11歳の私はフリスビーを投げ、チョコが草むらの中を走る。



 すぐそばで、パパが目を細めて笑っていた。





 しばらくして、パパが、《そろそろ帰ろう》と言ったときだった。




 11歳の私は、ふと横を見ると、道路の中央に、一匹の猫の存在に気づいた。




 不思議な雰囲気を漂わせる、その黒い猫は、11歳の私をじっと見ているかのようだった。




 そして、次の瞬間、なにかに取りつかれたように、11歳の私が道路へと駆け出した。





 『初樹っ!!』

と、パパの叫び声。




 パパの声で、はっとする11歳の私。




 いたはずの黒猫が、こつぜんと消え、11歳の私の前に待ち受けていたのは、国道からやってきた白い乗用車だった。