《クククッ。奴は、その日、渡そうとしていたのさ。指輪をね。運悪く、奴は死んでしまった。しかも、頭を強く打って、記憶までなくしちまってね。ま、唯一覚えていたのは自分の名前だけ。ちなみに、あの横断歩道のわきに供えられていた花は、あの女が持ってきたものだ》




 カイがこの世に思い残したこととは、彼女に思いを伝えられなかったということなんだね。



 大事な日…

 それは、彼女にプロポーズしようと思ってたんだ。




 彼女もまた、カイのことをまだ…





 《さっきも言ったはずだ。過去は変わり、未来は塗り替えられたと。奴は死なないし、彼女もまた悲しい思いはしない。なぜなら、お互いに違う道を歩むことになったのだから》




 カイは死なない。

 彼女もまた、悲しい思いはしない。




 こんな簡単に、人の未来を変えられるものなの?