彼は、目をぱちくりさせると、

 「俺、あんたに名前……」

と言いかけたときだった。





 ツルルルル────…





 彼の手元にあるケータイが鳴り出したのは。






 心臓が…

 止まるかと思った。






 彼はすぐさま、ケータイに視線を移すと、電話に出た。

 「あ、沙織ちゃん。ご、ごめん、寝坊しちゃってさ…」






 彼女…か。



 私は目を閉じると、ほっと息をついた。




 そして、電話越しでペコペコと彼女に謝っている、彼を見て思った。






 私…





 ほんとに




 5年前に来ちゃったんだ。