「優」

俺の名前だ。

「優」

優しい心を忘れないように。

「優!」

そんな優しい両親の元で裕福に育った。

「優ってば!」

父親譲りの身長と、母親譲りの容姿。

「優!!」

鼓膜を刺す様な女の声に、静かに目を覚ます。

視界に入ってきた陽の光の眩しさを感じながら、 声のした方を横目で見ると紺色の制服姿の女の子が覗き込んでいた。

ロングの茶色い髪は綺麗に巻かれていて、白い肌に華奢なライン。大きな瞳に薄ピンクの頬、愛らしいという言葉がまさに似合うその子から、甘い香水の香りがした。

「あぁ…どうした?」

優は、寝ぼけ顔で目を擦りながら上体を起こす。

「どうしたじゃないわよ!」

彼女は相当頭にきている様で、声を荒げてまくし立てる。

そういえば、俺には彼女がいる。

今隣で怒ってる。たぶん昨日の約束を破った事に腹を立てているんだろう。

学校の中庭でする俺の大切な昼寝の時間を、そんな事で邪魔しに来たのか?

「あーっ!うるせぇ!」

その場に立ち上がり、女を見下ろして怒鳴った。

彼女は突然の事に目を丸くする。

優は、呆然としゃがみ込んだその子に背を向け言葉を吐き捨てる。

「俺さ、もうお前飽きたから。今日で終わりな」

優は、背を向けたまま軽く手を振り、校舎の中に姿を消してしまった。

後に残された 元 彼女は、その後数日学校を休んだらしい。