常篤もこれには驚いた。もはやこの子どもは天涯孤独の身なのである。先に待ち受けるは、地獄やも知れない。
「だから…諏訪を常篤様が斬ってくれたとき、おいらも一緒に死ぬって決めたんだ!もしかして、おいらが先に腹を切れば常篤様は助かるかもしれないと思ったし・・・」
当時死罪覚悟の親兄弟の仇討ちは、武士の義としてむしろ讃えられる風潮すらあったのだ。この少年は仇を討ってくれた常篤の代わりに自分が腹を切ると言っている。そのために母が死んだ翌日だというのに、母の亡骸の横で必死に布を縫い合わせてこんな白装束まで作ってきたのだ。
小さな手がぼろぼろになっているのが目に入る。
常篤は熱いものがこみあげてくるのを感じた。
「秀五殿。」
常篤は、秀五に『殿』をつけて彼を呼んだ。
「はいっ。」
秀五が涙をぬぐって起立し返事する。
「お主のような少年がいれば、これからの松代藩は安泰だ。お主に知り合えたこと誇りに思うぞ。」
「…うん。」
涙顔の秀五は、子どもらしい笑顔をみせた。