「いいも悪いもないじゃないですか。

だって、留学するのは先輩の夢だったんでしょ?

だから……リズが人質。あ、犬質かな。

先輩が帰って来なかったら、あたしがもらっちゃいますからね」



わざと明るい声で、おどけて言う。

カイト先輩は、少し辛そうに顔をゆがめた。



「……向こうの大学を卒業したら、できればそのまま、向こうの大学院に通いたいと思ってるんだ」



ズキン、と胸が痛むけど。



「そうですか」



だけど、笑顔は絶やさない。



先輩は小さく息をついてから、こんな言葉を続けた。



「その後も、もしかしたら向こうで研究員になるかもしれないし、いつ日本に帰ってくるか、先のことは分からないけど……」



無言でうなずいたあたしの手に……

先輩が、自分の手を重ねてきた。