「暗い顔してどうしたよ?」
弘の笑顔は屈託なくて、美菜は一時不安が飛ぶのを感じた。
安定感に、ホッとする。
「弘がガラにもなく『なんだろうな?』なんて言うからでしょ」
せっかく飛んだ不安に引き返されたくなくて、美菜は精一杯の皮肉を込め、弘に文句をつけるフリをする。
「俺のせいかよ」
大仰に手を額へ当てて、よろよろと叶に寄りかかる振りをした弘を、叶はスッとよけた。
叶の表情とタイミングのうまさ、技のキレが見事ツボに入った美菜の顔に、笑みが浮かぶ。
「最近、叶がいい仕事するんだよ」
ポンと叶の肩に置かれた、弘の手。今度はよけなかった。
「なにそれ、お笑いでも目指してんの?」
わざと冷たい視線をする美菜に、弘がウッと詰まる。
「僕は断る」
サラリと拒否され、弘は弾けるように反応した。
「え~っ!? 見捨てるのかよぉ?」
そんなたわいもない会話をしながら、重く沈む空気をなんとか浮かせつつ、三人は体育館に入っていった。