では何故、あの風邪を引いた日、
千依はクマ先生の
病院に行ったのだろうか?

気になるので訊いてみたら、
あの日はちょうど大学が
長期の休みで、実家のある
双葉へ来ていたらしい。

そこで風邪を引いてしまい、
割と人見知りする
タイプの千依は、
知り合いの医者も
双葉には居なくて、困っていた。

そんな時、この街の友達に
クマ先生のやっている病院が
双葉にある事を
教えてもらったのだと言う。

「あの頃と変わってなくて、
何だかホッとしたなぁ。
髭面で、大きくて、
時々顔をくしゃくしゃに
して笑うの。
全然変わってないよね。」

「本当だよ。
僕も主治医だって
聞かされてものすごく
びっくりしたけど、
逆にクマ先生なら
安心だったもん。」

「やっぱり?」

「昔からお世話に
なってたもんな、僕ら。」

「うん。」

「いつか、恩返ししたいな。」

「そうだね。」

そんな会話をして、
圭吾は一つため息をつくと
目を閉じた。

今日は何故か体力の消耗が早い。

たったこれだけ
喋るだけでも、
息切れがしてくる。

嫌な予感がした。

(どうか、
悪くならないでくれ…。
千依との約束がまだあるんだ。
やりたい事だってあるのに、
こんな所でくたばって
たまるか…!)

圭吾はそう思いながら、
千依にバレないよう、
握りこぶしを作った。