「ちょっと待ってよ!全部憶測じゃないの!…
私が犯人だと言うなら、もっと決定的な証拠見せてよ!」


素直に罪を認めるかと思えたみどりが、意外にもそんな事を言いだした。


「え~い!まだシラを切るか!…この『桜吹雪』がぁ~…」



「またそんなもん描いて来たのかよ……コブちゃん……」


呆れたような顔で子豚の方を見た後に、シチローは松田刑事をチラリと見やった。


(やっぱり、そう来たか……全く厄介な事件だぜ)


幾つもの殺人事件に携わっている松田は知っていた。


映画やドラマと違い、現実の殺人事件の犯人というのは簡単には『自分が殺した』などとは言わない。


それは、殺人という犯罪に対する刑期の重さがあるからである。


何しろ、よほどの事でも無ければまず執行猶予など付かない。


通常十年以上もの長い刑務所生活が科されるのである…現在、青春真っ只中のみどりが再び実生活に戻れるのは少なくとも三十歳を過ぎてからなのだ。


被害者への良心がどうのこうのという『きれいごと』では割り切れないのが人間の心の現実なのである。