…兎に角この忌ま忌ましい袋から出なくてはならない。私はまるでこの為にあったかのように握られているモノを袋に突き刺し、目茶苦茶に引き裂いた。
 …小窓から月明かりが覗いている。その小窓と木製の扉以外はなにも無い、コンクリィトの冷たい部屋だった。
ここはどこなのだ。何故ここにいるのだ。昨日は何をしていたっけ。何故私は裸なのだ
思い出せないぞ、私の記憶の始まりは、先程の眼を開いた瞬間からしか無いのだ。マルデワカラナイ。
…眼を開いて、それから、左手に何かあるのに気がついて。そうだ、私は何を握っていたのか。

 ナイフ、いや違う、メスだ。外科医が手術で使うメスだ。マルデワカラナイゾ。

 アハ、アハ、私は頭がオカシクなったのだ…。
きっとこのメスで外科医の如く人間を切り裂いて殺したのだ。そうして独房なぞにでもブチ込まれたのだ。アハ、アハ…。


「ようやくお気付きになられましたね」


…なんだ今の声は。
「なんだ?誰だ?」


「さあさあ扉をお開けなさい」


ヌメヌメと蛞蝓の這うようなイヤラシイ男の声が扉の向こうから聞こえている。


「氏素性もわからん奴の云うことなど聞ける耳は持たん」



「ほう、では貴方はどこの誰なのです」

 ベトリベトリとナメクジが耳の中を這う。ヌメヌメと這って脳まで達すると、私の記憶を司る部分をガリガリと削る様に食べていく。