旅館を出ると
涼しい夜風が前髪を揺らした
旅館の隣の小さな土産物屋さんを通りすぎた時
柊ちゃんが「ん」って手を差し出した
なんだか妙に照れちゃって
しばらく
柊ちゃんの手を見つめると
「ほら、行くよ」
私の手を少し強引にとり
しっかり握って歩きだした
木の板の階段を降りて
丈の長い雑草の生えた川沿いを歩き
「蚊がすごいなぁ」
眉をしかめて 柊ちゃんは払うように手を振った
暗い川面には月明かりが映って
「ムーンリバー」
私が呟くと
柊ちゃんも目を細めて
川面に映る月の道を見つめた
二人で何も言わずに
ただ川を見つめてた
遠くから虫の音が響いて
私は柊ちゃんに とても酷な仕打ちを していないか
今更ながら 思った
私の身体にしがみついて
子供のように泣いた
柊ちゃんの体温や
背中のTシャツを握った力強さが
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