「じゃぁ、行くぜ」
「うん」
あぁ…たけちゃんの投げるフォーム…
あのときから全然変わってない。
1球1球に力をいれて、丁寧にミットの中へボールを入れていく…
私はたけちゃんが憧れだった。
なにもかもが凄くて、最初はいつものたけちゃんがまるで別人のように見えた…
「パァンッ」
「…柚!どうだった?」
「うん!なんかボールのスピードがメチャ速くなってない?」
「そりゃそうだろ、もう何年たってんと思ってんの?」
「たしかに。あのさ…もう1回投げてくんない?」
「いいけどさぁ~今、俺チョッと肩が痛いんだよね。やりすぎで筋肉痛だと思うんだけど…」
「じゃぁ、あと1回だけ投げて。お願い」
「いいよ、わかった」
「いくぞ」
そして、またたけちゃんはボールを持ちさっきと同じフォームで投げようとした。
あっ!…やっぱり。
そうだ、あの投げ方なんかへんだと思ったんだ…
「パァンッ!」
「ってぇ~肩ちょっとズキってきた」
たけちゃんが言った。
やっぱり…速さはずいぶん速くなってるけどね。
「たけちゃん、あのね…」
「うん」
「投げる時に力を入れすぎてその力が肩にも加わっていて、多分それを結構長く気づかずにやってきたから肩をずいぶん痛めていると思う…」
「え?でも、俺はこのフォーム昔から変わってないぞ」
「ううん、フォームわね、自分が変えていないと思っても、昔と今で体つきが変わったりしてフォームが変わってしまうんだよ」
なぜか、私は何年も野球をやってきていないのにスラスラと知ってかぶりのように言ってしまった。
「だから、投げるときは肩も一応使うんだけど肩ばっかでは投げないで。こうゆうふうに腕や指の先まで使ってボールを投げて」
「お、おう」
そしてたけちゃんは私の言う通りにしてボールを投げた。
「す、すげぇ。ほんとに今肩痛くなかった…」
「でしょ、もしこれがあと1ヶ月くらいあとだったらどうなっているか…」
「ウっソ!?」
「ほんと。」
「よかったー、柚に聞いといて。これで試合肩痛めずに試合出れるよ。少しこのままで出れるのか不安だったんだよねー」
「そっかそっか、それはよかった」
そして私たちはそのあともたくさん練習し続けた…
「あっ!柚、もう6時半だぜ。」
空を見上げるともうすでに暗くなっていた。
「ほんとだー、なんかあっという間だったかも…」
「だよな、また今度一緒に練習しよな」
「うん。またたけちゃんがフォーム崩れてないかみてあげる」
「はは、よろしく…って俺がそんなにフォーム崩れやすい人かよっ!」
「えへへーー」
その後、私たちは練習場をあとにして自分の家へと帰った。
それからも予選の試合にむけてたくさん練習した。
そして、みんなががんばったせいか見事予選を突破し甲子園に行くことができた。
明日はその甲子園の1番初めの試合だ。
「明日は、夢だった甲子園の予選だ。みんなこの試合絶対勝とう!」
監督が言った。
「「「「「はいっ」」」」」
チームみんなも真剣な表情をして、返事をした。
それを見ていた私は、なんか今のチームはすごくいい感じだから、とても負けるようにはならない気がした。
「菜奈、みんな今度こそ絶対甲子園でいい成績を収められるきがする」
「うん、チームみんなの今の雰囲気とっても見てていいよね」
━第五章…━
ー誰にも言えなかった秘密ー…
今日は、甲子園最初の試合。
去年より一歩前進した野球部だけど、ここで終わったりなんか絶対しない。
だって、今の野球部は「とても1人1人夢に向かって一生懸命頑張っている」ように私はみえるから…
10:00
試合開始。
「今から「青春高校」対「富士丘高校」の試合を始めます。」
アナウンスの声が鳴った。
その声を聞いて私達「青春高校」はベンチから立ち上がり、チームみんなで円陣を組んだ。
「今、お前たちはとても輝いている。その輝きは今までの試合の悔しさがあったからこそできたのだろう…、だから今日この試合でまた新しい伝説を作り上げてこい」
「「「はい」」」
チームみんなが一斉に声を張り上げた。
「じゃぁ、健、かけ声。」
「はい」
「この試合、絶対勝つぞー!!!」
「「「オーーーーー!」」」
そして、チームみんなはグラウンドに走って行った。
「これから、青春高校対富士丘高校の試合を始めます、礼!」
「「お願いします」」
ウー!とサイレンが鳴り、とうとう試合が始まった。
先攻は青春高校…
つまり私たち。
もちろんピッチャーはたけちゃんでキャッチャーは佑真。
この2人は黄金のピッチャーと呼ばれるほど相性がいい。
「プレイボール!」
最初の投球は、私に前言われたことをすごく意識して投げていた。
それから、次々とストライクを出し相手も粘り強くボールがストライクで終わらせて今は4回裏。
0-0の何も変わりのない試合。
このままで終わってしまうのなら、次の試合までにまた試合をしなければならない。
と、そのとき!
「カキーン!」
うちらの誰かのチームの人がホームランを打った…
それは、『佑真』だった。
「「「キャーーーーーーー」」」
一斉に色々な所から声がした。
私もみんなと同じように声を出した。
「菜奈、やったね」
「うん!これで、3-0だね」
菜々はものすごくうれしそうによろこんでいた。
…でもその後に
「カキーン」
相手の高校にも点を譲ってしまい、6回裏で4-4の同点。
こっちが点を取ったら相手も点を取るみたいに試合はだんだん進んでいく…
どっちのチームもだんだん顔つきがえらそうにみえる。
もちろん、たけちゃんだって。
今の回。たけちゃんが投げる番だ。
このとき、私はたけちゃんをずっと見ていた…
でもその時のたけちゃんの様子が少しおかしいと思った。
でも、それは疲れているだけだろうと思った。
━佑真━
さっきの回ではやっとこの試合はじめてのホームランを打てた。
菜奈を見たら、柚と抱き合ってものすごく喜んでいた。
なんかとってもうれしくて、気持ちよかった…
でも、その後相手のチームも迫ってきて、なんかとても苦しい…
そして、なんだか健のボールのフォームと投げ具合がおかしい。
俺が方向を指示してもその方向に投げるのは5分の2の確立だ。
フォームも体全体で力を出して投げていて、肩から手の先までをきちんと使って投げていない…
おかしい…
あいつ、どこかけがしていたっけ…?
俺はすごくあいつの事が気になって、審判にタイムをとり健と直接話をした。
「おい…お前なんか大丈夫か?」
「大丈夫って何が?」
「自分でもわかってんだろ?とにかくおかしいんだよ。」
「何が?」
「ボールが俺の指示通りに投げれなかったり、フォームが崩れてきたりしてすごい様子がおかしいんだよ。俺がどんだけお前のパートナーやってると思ってるんだよ」
━健━
俺は、4回の表から調子がおかしくなった。
その時は、大したことないだろう…と思っていた。
でも、5回裏。今まで痛めていた肩が痛くなり、その痛みでボールが佑真の指示通りに投げれなくなってしまった。
それに気づいているのか、チームみんな俺の事を心配そうに見ている。
そして、1番俺の事を分かっている佑真がついに審判にタイムをとって俺の方へ近づいてくる。
「おい…お前なんか大丈夫か?」
やっぱりわかっていた。
でも、ここで言ったらみんなに迷惑をかけると思って知らないふりをした。
「大丈夫って何が?」
そうゆうと、佑真はビックリしたような顔をしていた。
「自分でもわかっているんだろ?とにかくおかしいんだよ。」
わかってる…
わかってないわけないじゃないか、自分の体は自分が1番わかっているんだから。
けど…
「何が?」
知らないふりをしてしまった。
「ボールが俺の指示通りに投げれなかったり、フォームが崩れてきたりしてすごい様子がおかしいんだよ。俺がどんだけお前のパートナーやってると思ってんだよ」
そんな嘘を言っても、佑真は見ぬけていた。