俺は黙って武蔵の後を暫く付いて歩いてオーディション会場に向かっていた。

先に口を開いたのは武蔵の方。


「あの…えっと名前教えて貰ってもいいですか?」


「あ、すいません。後藤真輝です。よろしくお願いします」

一応頭を深々と下げておいた。


「頭なんて下げないで下さいよっ。俺困っちゃいます!」


あたふたと武蔵は俺の顔を上げさせた。

(あれ?なんか想像したのとちょっと違う)


服装もいかにもいかつい感じの武蔵は頬を赤く染めた照れ屋な奴みたいだった。

「すいません、一応…ミュージシャンだし…」


「敬語もやめましょうよ。こっちが恐縮しちゃう…」


「確か同じ年ですよね」


「じゃあ今年21?」

「はい」


「大学生?」


「一応3年だけど通信大なんで…確か工業大ですよね?」


俺と武蔵は暫く歩きながらたわいもない自己紹介めいた話をしていた。


(まぁ、素朴でいい奴なんじゃない?俺にはちょうどいい感じで)

自己主張の激しい奴は苦手。
自分があまり自己主張激しくないから。
だから相手はちょっと大人しい奴とか普通な感じの奴がいい。


武蔵とは…上手くやれるだろうか?