「あ、自己紹介しなかった。私ね、美也って言うの。長谷川美也ね。一応ソロでやってます」


「えっ、歌手だったんですか?」


「そ。今年で2年目ね。全然売れてないしオーディション落ちまくりだからライブも出来ないんだよねー。ここの電話番しながら秋葉原で路上ライブやってんの」


女…いや美也さんはどう見ても普通のOLにしか見えなかったが、話し方はやっぱりどこかオーラがあった。



「後藤君だっけ?ごっちゃんでいい?」

「はい」


「まあ、とにかく気楽にやりなよ。武蔵もあれはあれでかなりのんびりだからな…ちょっと叱る位でちょうどいいから」

「おい、また俺の悪口かよっ!」



来た……。



永沼武蔵。



「あれ、今日は早いじゃん。時間ぴったり。」


「いや、話声がしたから盗み聞きしてた」


「趣味悪っ!」



武蔵は見た限りは至って普通の学生に見える。

体格が少しいい体育会系に属してる人間だろうか?

多分俺とは正反対の性格なんだろうなー。


「おや、此方は新入りさんかな?」


いきなり武蔵は俺の顔を覗き込んだ。

悪戯っ子のような子供っぽい表情。


「違うよ。この子はあんたの新しいマネージャー君」


「えっー冗談でしょ?何で俺ごときにマネージャーが?」


「知らなーい。あんたが自分の事管理出来ないから社長が付けたんじゃない?でもあんたさ、かなり昔にもマネいたよね?」


「うん、まだ事務所入り立ての頃にね。そのマネさんは体壊して退職したけどな」


「そうなんだ?まあ同じ年みたいだし仲良くやんなよ。あんたそろそろ行った方がいいよ」


美也さんが時計を見て武蔵を促した。




「じゃあ行きましょうかね」


「ちょっと待ちなさい」


「はい?」


「この子も連れてくの」


「忘れてました…」

どうしていいか解らずに呆然としてた俺の背中を押すように美也さんに見送られてとりあえず事務所を出た。